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名前を知りたい

声を聴きたい

 

その髪に

 

触れてもいいですか

 

 

人はいないと思っていたのにどうしてこんなところにという気持ちの方が大きかった。
MMMのエージェントをまくために裏路地の狭い通路に入り込んだはずだった。
狭く暗いコンクリートの壁の間を全力で疾走していると
目の前に人影が見えた
ギリギリぶつかることは避けられたが、思い切りごみバケツに突っ込んでいく羽目になった。
「だ、大丈夫ですか???」
驚いた顔で少女は僕の顔をのぞき込む。
「いやあ、あははは…大丈夫です…」
ごみ箱の蓋を頭からどけながら笑う。
少し生ゴミの匂いが服に付いたかもしれないが…洗濯すれば大丈夫だろう…洗濯…できるよな?
立ち上がると同時に遠くから足音が聞こえた。
「いけないっ!!!早くここから遠くへ行ってください!!!」
「え…?」
きょとんと大きな瞳が不思議そうにこちらをみる。
次第に足音が近づいてくる。
このままでは彼女も巻き込んでしまう。
「説明している暇はありません!早く!!!」
とっさに彼女の手を握り走った。
狭い路地から今度は大きな通りへ向かう。
さすがにMMMも多くの一般人を巻き込んだりはしないだろう。
今は『逃げるが勝ち』だ。

「はぁはぁはぁ…ここまで…来れば…ダイジョブです!」
息切れが激しくて、さわやかイケメンとはいいがたかったが彼女を無事に逃がせてほっとしていた。
「よく…わからないけど…ありがとう」
にこりと彼女が微笑んだ。
どきり
「あ…怪我…」
「え…?あ!?大丈夫です!このくらい!いつものことなので!!」
転んだときだろうか頬から血が滲んでいたようだ。
この程度の怪我はよくあるので気にしていなかった。
すると彼女はふふっと笑った。
「いつも?いつもこんな怪我してるんですか?だめですよ自分を大事にしてくださいね」
彼女は自分が冗談を言っているんだろうと思っているに違いない

名前を…

 

 知りたい

 

貴女の

   

   名前は…

 

はっとした。
名前を聞いたら関わってしまったら
彼女も巻き込んでしまうかもしれない
ここで
別れなければ
彼女はなにもなくただの通りすがりでいなければ

「じゃあ、あの…僕はこれで失礼します…!あのっ…気を付けてくださいね!」
彼女はまた笑う。
「ふふふ、気を付けるのはそっちじゃないの。怪我きちんと手当てしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
彼女が手を振る。
振り返っちゃだめだ

さよなら


さよなら…


でも一目だけ…振り返ると彼女はまだ手を振っていた。

名前を知りたい

 

声を聴きたい

 

その髪に

 

触れたい


         げる
              


TO BE NEXT…?

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